友として
――部落解放祈りの日に寄せて――
さて、ペトロは相当の日々をヤッファにある革なめし職人シモンのもとに滞在したのであった。
(使徒言行録9章43節[私訳])
冒頭の引用はペトロがタビタという女性弟子を甦らせた死者蘇生の奇跡物語(使徒言行録9章36−43節)を締め括る描写です。ペトロが奇跡を行った後に向かったのは皮なめし職人シモンの家でした。古代ユダヤ世界では「皮なめし」は動物の死と血に触れることや悪臭を放つことを理由に穢れた職業として差別の対象とされていました。時代や文化は異なりますが、ここには被差別部落の伝統的職業に対する差別と通底する問題があることに気づかされます(栗林輝夫)。ペトロがシモンのもとに滞在した期間を新共同訳聖書や協会共同訳聖書は「しばらくの間」と訳していますが、正確には私訳に示したように「相当の日々」ですので、長期間ペトロがシモンの家で過ごしたことがうかがわれます。つまり、ペトロが「相当の日々」をシモンの家で過ごしたという描写からは、ペトロとシモンが友としてゆっくり一緒に過ごしていた様子が浮かんでくるのです。7月9日に「部落解放祈りの日」を迎えます。ペトロとシモンのように、友として出会い、友として一緒に歩んでいくことによって、身近な生活から部落解放を求め続けていきたいのです。(小林昭博/酪農学園大学教授・宗教主任、デザイン宗利淳一)