【4767号】函館「元町・教会めぐり」2012 各教派合同企画によるツアー

北海道函館市の西部地区元町において、昨年9月29日(土)午後、キリスト教各教派による合同企画、「元町・教会めぐり」が行われた。「一般市民に、音楽を通じてそれぞれの教会の伝統や特色に触れていただこう」という、一昨年に続く2回目の試みであった。
函館は、安政5カ国条約(1858年)における開港5港(箱館、新潟、神奈川、神戸、長崎)の一つであり、幕末から明治初めにかけて伝道を開始したキリスト教各派の会堂が、函館港に面する函館山の山裾斜面に集中的に存在する。その範囲は直線で3百メートル足らずである。こうした歴史的・地理的背景を利用して、それぞれの教会を順次訪ね、約30分ずつ各教会の特徴的な音楽に触れていただこうというのが企画の趣旨である。
土曜日の午後1時30分、いちばん坂下に位置する教団函館教会からツアーは始まった。参加者はほぼ170人、各教会で待機していた人々を加えると最終的には250人を越えたであろう。
函館教会の今年のテーマは、「讃美歌に聴く作曲者たちの祈り」。讃美歌のメロディーをとおして有名な作曲家の作品に出会うという趣旨である。教会沿革の簡単な紹介のあと、讃美歌2編95番『わがこころよ、いま』と、讃美歌30番『朝風、静かに吹きて』が取り上げられた。
2箇所目は、2百メートルほど坂を上ったカトリック元町教会で、教会所属聖チェチリア混声合唱団によってグレゴリオ聖歌、フランス聖歌、日本の典礼聖歌が演奏された。
次いで50メートルほどさらに上に位置する日本聖公会函館聖ヨハネ教会。ここではアングリカンチャントによる「夕べの祈り」がほとんど式文どおりにささげられた。
最後は、道を挟んで聖ヨハネ教会の西隣にある函館ハリストス正教会に移動し、「晩課」と呼ばれるロシア・ビザンチン聖歌による祈りに参加した。
幕末当時から函館の玄関口であった元町地区には、奉行所や各国領事館が置かれており、宣教師保護の上からこの地域に教会が集中した。1858年、ロシアから渡来した正教修道司祭フィラレートに始まり、翌1859年フランスからカトリックのメルメ・カション神父が、1874年には米国メソヂスト教会からメリマン・コリバート・ハリス監督、イギリス英国聖公会からウォルター・デニング司祭が相次いで来日し、文字通り東、西、北から世界のキリスト教各派が函館で出会ったのである。
4教会の会堂もそれぞれの伝統を背景にした特徴的な建築物である。ハリストス正教会の聖堂は1916年に建てられ、国の重要文化財に指定されている。カトリック元町教会の木彫の手彫り祭壇は、大火で消失した聖堂を1923年に再建した折に、時のローマ教皇ベネディクト15世から寄贈されたという稀有のものである。わが函館教会の会堂も1931年に建てられ、市の歴史的景観形成建築物に指定されている。
しかし、異国情緒あふれる街並みを形成するこれらの建築物も観光資源としての役割は果たしつつも、地域住民の間からは、「会堂内に入る機会も少なく、中に入ってよいのか、いつ入ったらよいかもわからない」「まだ一度も中を覗いたこともない」という声が聞かれることも多かった。そこで、観光客だけでなく地元の市民に呼びかけ、会堂の中に入っていただこうというのが、合同企画の出発点であった。
函館教会では、讃美歌の旋律の由来を紹介しながらブラームスの『コラール前奏曲第五番』(讃美歌2編95番の旋律を含む)をパイプオルガンで演奏したあと会衆賛美、メンデルスゾーンの『無言歌集第2巻第9番ホ長調』(讃美歌30番の旋律)のピアノ演奏後に、会衆賛美という内容。前者の歌詞では、「聖餐式」の意味、後者では作詞者のストウ夫人が祖母から受け継いだ信仰を紹介した。音楽愛好家だけではなく郷土の歴史に関心を寄せる人、教会を覗いてみたい人など広範囲の人々を対象にした欲張った解説であった。
教団函館教会以外はいずれも「国教会」の伝統を持つ教会である。国教会と言うと伝道はしない、と考える向きもあるが、伝道地日本における宣教師たちの命懸けの伝道の遺産は、信仰に基づく教育、医療、福祉の各分野に及び、人権意識の啓発、人格形成、世論形成等をとおして近代日本の文化形成に大きく寄与した。家族への信仰継承などは信仰が極端に個人化してしまった我々が失ったものを今なお保持している。
他教派信仰者・教職者との直接の触れ合いから受ける刺激には極めて大きいものがあった。
(松本紳一郎報/函館教会伝道師)

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