【4737号】荒野の声

▼いにしえの都から奪われた燭台を、取り戻す力はないから、これを追いかけ、その持ち主が変わる度に、部族ごと転居する民がいる。今、ローマをヴァンダル族が襲った時、最早移り住むことが不可能な老人たちが、せめて港でと、燭台の行方を見詰める。▼一行に加えられていた少年が問う。「なぜ、神様は、この略奪を辛抱していらっしゃるのですか?…神は公正で、全能なるものだとおっしゃったではありませんか…なぜ、心正しき者に味方して下さらないのでしょう!」▼祖父はたしなめる。「だまりなさい。神をけがすような口をきくものではない!」途端、ラビ・エリエーゼルは言う。「あんたがまずだまりなさい。この子のなに一つわきまえぬ心が問うていることは、わたしどもが、日々、毎時間、自分みずからに問うていることではないのか…この子のたずねているのは、わたしども古い昔のユダヤ民族の問い以外のものではない」▼ラビは、この問を深め、かく結ぶ。「行きつくその目的地は知らないが、しかし、辛抱づよく歩いて行く道だけが、聖なる道である」耳をすまして聞いている少年に、ラビは言う。「これ以上は、もうたずねないでくれ、お前の質問はわたしの知をこえているからなのだ。時を待ってほしいのだ。いつか、神は、おまえ自身の心の中から、返事をして下さるだろう」…S・ツヴァイク『埋められた燭台』みすず書房▼何故と問うことは不信仰だと考える人がいる。そうかも知れない。何故と問うことで、信仰を失う者もいるだろう。しかし、何故と問うことで、己をも見つめ直し、信仰を与えられる者もいる。歩き続け問い続ける者に、神は答えてくださる。

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