【4924・25号】イースターメッセージ 心が燃えていたではないか 渡辺兵衛

芥川龍之介 最後の言葉

芥川龍之介の絶筆とされる『続西方の人』の末尾に、「彼の一生はいつも我々を動かすであろう。……我々はエマオの旅びとたちのように我々の心を燃え上がらせるクリストを求めずにはいられないのであろう」と記されていて、これが最後の言葉となっています。芥川龍之介は、ルカによる福音書の復活したキリストの姿に最後まで心をとらえられていた人だったことがわかります。

関口安義著『芥川龍之介』(岩波新書)には死の間際の芥川の様子が次のように記されています。「午前二時ごろまで雨の音を聴きながら二階で書きものをしていた。……『我々はエマオの旅びとたちのように(以下略)』の一文で、彼は『続西方の人』を結び、ひとまず『聖書』を閉じる。……午前二時になり、妻と三男也寸志の寝ている一階の部屋の床に『聖書』を持って入る。睡眠薬の致死量はすでにのんでいた。枕元の電気スタンドの光で、彼は再び『聖書』を開く。しばらくして眠りについた」。

その情景が目に浮かぶように感じられます。関口氏は、「芥川龍之介は、人生のぎりぎりの地点でこの聖書の言葉にふれて心を打たれ、『我々の心を燃え上がらせるクリスト』と表現した。近づくキリストに最晩年の芥川は出会い、心を燃やしている」と述べています。

このところを読んで、私は強く心を動かされました。ある人たちからは「敗北者」のように見なされている芥川龍之介が、死の直前まで、キリストとの出会いによって心を燃え上がらせられるのを必死に求めていたことが伝わってきます。

そして関口氏の指摘の通り、そのことがついに成し遂げられ、安らかな心境にされて死を迎えている姿を感じ取ることができます。さらに、このことを誰かに伝えずにおられない思いをもって、上記の最後の言葉を書いたのだと思います。

復活のイエスと出会う

ルカ福音書24章で、二人の弟子がエルサレムからエマオへの道を重い足取りで歩いていた時、そこに復活のイエスが現われ、彼らに語りかけたのですが、それがイエスだとは気付きませんでした。失望と落胆のために彼らの目が遮られていたのでしょう。

また二人はこの日の朝、女性たちが墓で「イエスは生きておられる」と天使たちに告げられたとの驚くべき知らせを聞いたはずなのに、その言葉は空しく響いただけでした。「イエスは復活し生きておられる」といくら言葉で語られても、聞いている人には何の出来事も起こらないという現実が現われています。

出来事が起こったのは、三人一緒にエマオに着いて、食事を共にしていた時のことでした。復活のイエスがパンを取って彼らに渡したとき、二人は一瞬だけ「イエス様だ!」と気付かされ、それでイエスの姿は消えてしまいました。

このとき二人は、道の途上でイエスの語る言葉を聴いていた時に「心が燃えていたではないか」と共通の経験を分かち合っています。復活のイエスの姿は一瞬にして消え失せましたが、イエスと歩みを共にしながら、その言葉によって燃やされた心は、その後のふり返りの時にも燃え続けていたに違いありません。

そこで二人は即座にエルサレムに引き返すという行動を起こしました。暗い顔で歩いて来た道を、別人の表情になって一刻も早くとの思いで駆け出して行ったのでしょう。それが二人にとって新しい出発となりました。

牧師として新しい出発

「心が燃える」という経験は私たちにも起こることです。私は今「あの時」のことを思い起こしています。

牧師になって十年程経って、偶然手にしたある冊子で、青年時代に目をかけていただいたK牧師の説教を読んで衝撃を覚え、直接説教を聴きたいと思って大阪の教会まで行きました。K先生は私たち夫婦の突然の訪問を殊のほか喜ばれ、礼拝後昼食をごちそうしてくださいました。

梅田駅構内のレストランで先生夫妻と私たちの4人で食事をしていた席で、K先生は胸のポケットから手帳を取り出して開いて見せてくれました。そこには何十人もの名前が書かれていて、中には私の知っている名前もありました。この人たちのために毎日祈っているとのことでした。「この先生は、こういうことをしているのか」と、その時初めて知りました。

私は説教はとてもマネはできないけれど、このことなら自分にもできそうだと思って、北海道の教会に帰って、特に気がかりな人から順にリストを作り、その名前を見ながらとりなしの祈りを始めることにしました。

このことが、私がK牧師から一番学んだことです。そしてこれが私にとって牧師としての新しい出発となりました。

心を燃やし続ける

それから二十数年を経て、あの時のことをふり返っています。私は今、朝起きて窓のカーテンを開けて、空を見ながら数十人の人たちのためにとりなしの祈りをしています。特に困難な状況にある人やこれまで親交のあった大切な人たちの名前を見ながら、「今日も一日、あなたが共にいてください」と祈るひとときは、私の生活の中で欠かすことのできない大事な時となっています。

そのことをK牧師から教えられて、これまで続けてくることができたのは、あの時私の心を燃やしてくれた炎を、今も消すことなく燃やし続けているということになるだろうと思っています。

そして自らやってみてわかりますが、誰のために祈っているかは、家族にも知られたくない牧師の秘密です。K先生がリストを見せてくれたのは、余程のことだったと思われます。これが牧師にとってすべての働きの根源だということを、私に伝えようとされたのだろうと、今になってふり返っています。私も恩師のK牧師から受けたことを誰かに受け継いでほしいと願っているものです。芥川龍之介もあの最後の言葉を次の世代の人たちに言い残したいとの思いで書いたのではないかと想像しています。

(八雲教会牧師)

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