「はっきり言っておく。わたしの兄弟であるこの最も小さい者の一人にしたのは、わたしにしてくれたことなのである」(マタイによる福音書25・40)。
一昨年3月東京都目黒区で当時5歳の女の子が虐待死した。継父より字の練習を命じられ、食事の制限「しつけ」と称して不適切な扱いの日常だった。
同年5月、大阪の警察署に70歳代の女性が訪れ「アルバイトをしながら、自分一人で認知症で寝たきりの夫の介護をしてきたが、4月末から食事を与えていない。もう疲れた。死んでもかまわないと思った」と話した。
最新の人口統計によると日本の総人口は1億2615万人、うち14歳以下の年少人口は1528万5000人で全人口の12・1%、65歳以上の老年人口は3580万1000人で全人口の28・4%と年少人口の倍以上となっている。少子高齢社会は、これからの日本の次世代を担う若者を心身ともに健全に育て社会に送り出すとともに、長く生き日本の社会を支え担ってきた高齢者への敬意を払った支援等、大切な社会的使命を負っている。
社会福祉法人仙台キリスト教育児院は、1906(明治39)年2月27日雪交じりの冷たい雨のなか、アメリカ人女性宣教師が前年、南東北地方を襲った大凶作により飢えに苦しむ7名の貧孤児を救済して今年で創設115年目となる。
創設の精神である「喜ぶ人と共に喜び、泣く人と共に泣きなさい」(ローマの信徒への手紙12・15)を支えに、その時代その時代に神様の導きで様々な困難を乗り越えてきた。
いま、育児院には、産院で生みの母と別れ児童相談所の職員に抱かれて入所する生後6日目の新生児、また老々介護等が理由で在宅介護が困難になり終の棲家として入所する高齢者がいる。生きる現実は厳しい現代社会である。
入所児童の虐待ケースは増加傾向にある。児童は家庭、家族という大切な拠り所を失うことで、社会生活を営み人生を送るために欠かせない自尊心、自己肯定感、自信を喪失する。社会はこれらの事情をその家庭の個別的問題として特別視するのが一般的である。どの家庭、家族においても子育て、家庭生活を安定的に送ることは単体の懸命なやる気のみでは困難で多くのサポートが欠かせない。
まさに「子どもは神様からの授かりもの。子どもは社会で育むもの」という基本認識に立ち、虐待で苦しむ子どもたちのかけがえのない命を守ることが社会の一人ひとりに強く求められているのである。
「小さい者の一人」をわたし自身の中に見出すとき、神の前に謙虚でへりくだった自分にイエスの言う「わたしにしてくれたことなのである」との御言葉が生きる道標として示されることを信じ、祈りつつ向き合いたいと思う。