2011年2月1日、日韓教会交流史研究会が韓国・長老会神学大学と聖学院大学とによる共同研究会として開催された。この研究プロジェクトは両大学と長年にわたって深いかかわりをもつ、池明観(元東京女子大学教授)、康仁徳(元韓国統一省長官)両氏の共同提案から始まった。その提案趣旨には「日韓のキリスト教史を1910年を起点に、日韓関係の未来に向けて前向きに捉えなおす。北朝鮮、中国を視野に入れ、北東アジアのキリスト教会の交流と協力の基礎を築く。また研究の基礎に第二次世界大戦後に制定された日韓両国の憲法研究を置く」と記されている。
今回は第1回目として、先行研究の学びと検討を主眼とし、3名による講演発表がなされた。
最初に、「1910年までの日本側から見た日韓キリスト教会交流」との題で、原誠氏(同志社大学神学部教授)が講演、その当時の日本における各教派の教会指導者たちの発言を引用しつつ、「文明の梯子段」(鶴見俊輔)の枠組みの中で、日本のキリスト教会もこれに貢献し、国家から認知されることが最大の課題であった。したがって日本の支配力・統治力が拡大されていく韓国の中で、日本のキリスト教会がこの政策にコミットしないという選択肢は存在しなかったと述べ、ただひとり柏木義円の視点のみが出色であると結んだ。
二人目、松谷基和氏(早稲田大学研究助手)の講演は「日本組合教会の朝鮮伝道再考-組合教会に加盟した朝鮮教会・指導者の内的動機-」との題でなされた。
従来の研究では、組合教会による朝鮮総督府機密費の受領、またそれに象徴される植民地政策への協力側面を批判するものが大半であった。
それに対し、今回の発表では一次資料の綿密な分析に基づき、組合教会に加入した朝鮮教会の事情・動機が子細に分析された。そして、米国人宣教師からの独立を志向し、組合教会に加入することで、自らの教会の自治拡充と財政支援を獲得したという側面が提示された。
また、日韓キリスト教の関係史についての今後の研究にあたっては、両国教会の事情を分析することに加えて、欧米宣教師の影響をも視野に入れて検討することの必要性が力説された。
三人目は李致萬氏(長老会神学大学研究教授)が、「日本帝国主義の朝鮮キリスト教政策と朝鮮統治問題に対する日本プロテスタント教界の反応」と題して講演した。冒頭で本研究の主題に触れつつ、日韓のキリスト教の関係史については、両国教会の交流史に限定されるのでなく、教会と社会、政治、国際関係といったより広い視野のもとでの歴史が捉えられるべきであると強調された。
さらに日本の韓国統監府・朝鮮総督府のキリスト教政策について、時代を区分しながら概観し、内地と同様の施策を推し進めているようでありながら、注意深く観察すると現れてくる朝鮮総督府に特徴的な政策に、この時代のキリスト教政策を解く手がかりのあることが示唆された。
以上の発表を受け、コメンテーターおよび参加者との質疑応答がなされた。その内容としては、欧米ミッションとその宣教師の影響力と現地教会への関係をめぐる日韓両教会の相違について、また1945年以前の歴史事象へ現代的状況から評価をすることの意味と限界について、1919年「三・一運動」と教会のかかわりについて等、活発な意見交換がなされた。
また、研究会の中での「朝鮮」「日韓併合」の語の使用については、一次史料に即して議論するという学術研究の性格によるものであることが確認された。
なお当日40名ほどの出席者のうち、日本基督教団教師の参加者が10名を超え、この主題への関心の高さを窺わせた。
同研究会は3年間の研究プロジェクトとして企画されており、今後さらに1945年以降の両国デモクラシーと教会の関係について、さらに21世紀の北東アジアにおける教会の役割についても研究が進められることとなっている。
(新報編集部報)