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日本基督教団 The United Church of Christ in Japan

【4592号】仕えられるためではなく、仕えるために アジアキリスト教教育基金の働き

2005年12月10日

アジアキリスト教教育基金(ACEF)は、一九九〇年一〇月、隅谷三喜男氏を中心に発足した。この年は、国連による「国際識字年」にあたり、世界のすべての子どもたちに初等教育をとの呼びかけが行われた年でもあった。
ACEFは、二つの目標を掲げた。ひとつは、「バングラデシュに寺子屋を贈ろう」。アジアで最も貧しい国に、その国のキリスト教系NGO(BDP)と共働して初等教育を普及させようということである。次に、この運動を通じて、「アジアに使命と責任を持つキリスト者青年を育成しよう」ということである。

・寺子屋学校では

バングラデシュのBDP創設者であるマラカール女史は、熱心なキリスト者で、イギリスで学位をとった女医さんでしたが、地域医療を進めているうちに、国民の識字率の低さ(30~40%)に直面し、医師を辞めて初等教育に専念しました。当初、首都ダッカの郊外にあるスラム地区で、一六三名の幼児と、数名の女子中学生を先生に、一クラス二〇名で、粗末な家の軒下を教室に始まりました。成績が優秀でも貧しさのために進学できない女子に奨学金を与え、進学できなければ一四〜五歳で結婚させられてしまう女子に、仕事と学業を両立させる一石二鳥のプランでした。
日本からの協力を得て、この運動は徐々に農村地域にも発展し、現在ではバングラデシュの北部から南部まで六地域に、寺子屋学校六五校、教師二七四人、生徒数一〇、八二六人となりました。

・運動の特徴は

この運動にはいくつかの特徴があります。
第一に、運動の中核を支えているのはキリスト者ですが、重要な部門にイスラム教徒、ヒンズー教徒も居り、毎朝行われるキリスト教の礼拝に彼らも参加しています。ともすれば、宗教対立が声高に叫ばれる現在の世界において、共に各々の信仰を重んじ、尊敬しつつ、ひとつの目標に向かって「仕えてゆく」姿は、二一世紀における宗教信仰のあり方を示しているように思われます。
第二に、この運動は単なる識字運動ではなく、イスラム世界にあって「女性解放運動」につながっています。マラカール女史の信念によって、教師はすべて女性となっていますが、都市のスラム、農村において、女性が村の中心である学校教師になることが、女性の社会的地位を飛躍的に拡大することにつながりました。
小さな村においては、教育関係のことのみならず、村のあらゆる行事に教師が関係することとなり、女性が公衆の面前で堂々と発言する、それが認められるようになったのです。
これは、イスラム文化圏においては画期的なことであり、新しい村づくりです。
第三に、ACEFとBDPとの関係は、援助するもの、されるものという関係ではなく、共に働く「共働者」という関係です。通常、資金提供者は、ドナーとかスポンサーと呼ばれていますが、ACEFは、そのいずれでもなく「コーワーカー」です。
この原理は、BDPと地元との関係にも適応され、地元のニーズを優先し、地元の人々が共に参画するプログラムがあらゆる面において見られます。これは聖書における「人の子が、仕えられるためではなく仕えるために」(マタイ20・28)との御言葉に基づいています。

・ACEFの国内活動は

ACEFは、国内においては、春秋にセミナーを開催、「アジア」「キリスト教」「教育」をテーマに、すでに二八回の学習を重ね、多彩な学者、研究者を招き研鑽を続けています。
三月と八月には「寺子屋学校訪問スタディーツアー」を主催しています。このツアーには、高校生、大学生、幼小中高大の教職員、主婦など、あらゆる階層、年齢の方が参加されています。寺子屋学校を訪問し、教師、生徒たちと話し合い、遊んだりすることはもちろんですが、朝晩に礼拝の時があります。キリスト者か否かは問わず、すべての参加者に聖書の箇所が割り当てられ、準備された奨励がなされます。バングラデシュの大地のもとで御言葉に接することは、平穏無事な日本で聖書を読むこととは別のインパクトが与えられます。キリスト教学校に通いつつも、チャペルにも行ったことのない学生が、この地で初めて福音に出会い、帰国後、教会に行き始めて洗礼を受けたという例が、すでに四〇人ほどあります。
ある自称「落ちこぼれ」の高校中退者は、バングラデシュの方々の温かい愛に触れ、「本当の自分」に戻ることができたと告白しています。その大地と自然と温かな人情、そして聖書の学びが、人をその根底から考えさせ、ありのままの姿で受け入れてもらえることによって、まさに回心の経験とも呼ぶべき経験をして帰国しています。

・今、最も深刻な問題は

「五つのパンと二匹の魚で五千人を養った」奇跡は、すべての福音書に記されている唯一の奇跡物語です。それは、初代教会で重要視されたからに他なりません。今、世界で最も深刻な問題は「貧困」であり、「貧富の格差」「分配の不平等」です。ここに示された聖書の真理こそ現代世界を照らし、二一世紀の世界が目指すべき道標です。私たちはこの御言葉を信じて活動したいと願っています。
(船戸良隆報・アジアキリスト教教育基金事務局長)

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