▼新幹線で、品の良い老夫婦と相席した。夫婦は、周囲の迷惑にならないように、小声で会話している。興味深い話題につい聞き耳を立てたくなる。しかし、何より惹かれたのは、二人が互いを、名前にさん付けで呼び合っていること。▼数十年前の教会にも、互いをさん付けで呼び合う「品の良い」夫婦があった。新婚の我が妻は、この夫婦に憧れて、これに真似た。照れ臭かったが、まんざらでもなかった。▼しかし、その年の内、子供がお腹の中にできた途端に、呼び名は「お父さん」に変わった。夫であって父ではないと抵抗したが、空しく敗れた。▼今、飼犬の「お父さん」にまで、降格している。ご近所の人にまで、○○ちゃんのお父さんと呼ばれる。この犬が子犬を産んだらと、想像するのも恐ろしい。▼「親しき仲にも礼儀あり」「親しんで慣れぬが良し…ゲーテ」そういう次元の話ではない。互いに尊敬の思いを持ち、労り、優しく語り合う。なんと美しい。年月によって熟成された真の愛が伝わって来るようだ。