【4652号】人ひととき 久保南海代(なみよ)さん

生かされゆく
パッションと喜び

この人の、この体のどこに、これだけの力が秘められているのだろう、と思わされる。それほど大柄ではない。むしろ小柄なほうだ、と思う。しかし、久保さんが二〇年にわたり制作に取り組んできた壁画群は、北海道から九州、アイスランド、オーストラリアなどに描かれ、総計三千メートルに達した。とにかく作品が大きい。壁画だけでなく、博覧会パビリオンの高さ四六メートルにも及ぶテント、瀬戸大橋開通の祝砲に模した高さ十五メートル、幅十一メートルの祝い旗など、手がけるものが大きいのだ。
もととも芸大では日本画を専攻。描くことが好きで進んだ道だったが、在学中、既に画家になる気持ちが萎えていた。教授陣からの評価も芳しくなかったのだが、むしろ師に拘らないことがのちの自由な作品につながったのだろう、と久保さん。
描くことは結婚を機に中断してしまったが、しばらくのちに再開。制作に大きな転機をもたらしたのは、夫、勝彦さんの転勤に伴う、四年ほどのニューヨーク住まいである。八〇年代前半、晩年のA・ウォーホールらが活躍していた。南海代さんの日本画の枠は全く取り払われてしまった。壁画など大作の取組みもこののち始まってゆく。
小さい頃から負けん気が強かった。右の頬を打たれたら左の頬を、などとんでもないことだった。企業家の祖父がよく魚港に連れていってくれて大漁旗を掲げ戻ってくる漁船を見せてくれた。喜びの中を帰ってくることと大きな旗がつながって作品の潜在的なモチーフになっているのかもしれない、という。
教会で出会い結婚した勝彦さんを四年前に天に送った。画家としての南海代さんの良き理解者だった。死はなかなか受け入れ難い。これを振り切るように制作に没頭した。この春、ニューヨークで個展を開いた。赤を基調とする作品群は、生かされるゆえの苦しみと、そして喜びを叫んでいるかのようだ。

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