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日本基督教団 The United Church of Christ in Japan

【2024年6月】今月のメッセージ『人間だった』

2024年6月3日

「人間だった」

聖書箇所:「主なる神は言われた。「人は我々の一人のように、善悪を知る者となった。今は、手を伸ばして命の木からも取って食べ、永遠に生きる者となる恐れがある。」主なる神は、彼をエデンの園から追い出し、命の木に至る道を守るために、エデンの園の東にケルビムと、きらめく剣の炎を置かれた。
創世記3章22-24節


佐世保教会
深澤 奨 牧師

 創世記にある第二の創造物語から読んでみました。色々問題もあり、突っ込みどころの多い箇所ですが、いろんな気づきを与えたり、現代の僕らに強くひびいてくるものもあったりします。

 神様はエデンの園の中央に「善悪を知る木」と「命の木」という2本の木を生え出でさせ、その二つの木からは決して実を取って食べてはならないと言うのですが、ご存じの通りエバもアダムも食べてしまいます。「善悪を知る」って言うのはいいことじゃないの?と思いがちですが、これは「良いことから悪いことまで全てを知り、全てをなすことができる」という意味で、知るっていう言葉はヘブライ語では「体験的知覚、体得する」という意味もありますから、要は「善いことから悪いことまで全てを知り、全てをすることができる」いわば神様のような全知全能の力を手に入れちゃったということのようです。

 これ、今から3000年も前に書かれた文書なんですよね。現代ならまだしもようやく鉄器を作り始めたような時代に、人間は既に全知全能を手に入れたなんて発想をしてたこと自体、驚くべきことだと思います。でもね、もっと驚くべきことは、それでもなおまだ一つ、人間が手を出してはならないことがある、全知全能を手に入れちゃった人間も「命の木」には手を出してはいけない、そういう禁断の領域が残されていると言っている。これはほんとに驚くべき自己認識だと思うんです。

 じゃあその禁断の領域って何なのか。これはいろんな分野でそれぞれ思い当たるんじゃないかと思います。例えば、今気候変動が叫ばれていますが、思いのままに雨を降らせたり降らせなかったりする気象改変技術が模索され、一部実用化されています。北京オリンピックのとき開会式に雨が降らないように、空にヨウ化銀をばらまいて天気をコントロールするということが行われましたが、この技術も悪用したら大変なことになります。

 あるいはこれも今盛んに行われているゲノム編集、命の設計図を人間が思いのままに都合良く書き換えるという技術。野菜や家畜ならいざ知らず、ゲノム編集した人間の赤ちゃん、いわゆるデザイナーズベイビーが作られるに到っています。でもそれってやっていいことなの?それこそ禁断の領域なんじゃないの。
 あるいは命の設計図を破壊する核エネルギー、放射能ですね。これ人間にはとても手に負えないのです。チェルノブイリも、福一もいまだに手がつけられない、ただ蓋をして閉じ込め、じっと冷えるのを待つしかできない、待ってる間も危険がつきまとい、命の設計図を破壊する放射能を垂れ流し続けるわけで、核技術こそ「命の木」そのものだと僕は思っています。

 僕はこの創造物語が「命の木」という禁断の領域を設定していることにほんとに驚きと畏れを禁じ得ません。全知全能をすでに手に入れてしまった人間にも、なお禁じられた領域が残されている。そのことを僕らは深くわきまえていたいと思います。そして手を出してならないものからは、潔く手を引き、足を踏み入れてならない場所から、潔く撤退していく、そういう人間としてのわきまえを持っていたい、そのことを声を大にして宣べ伝える者でありたいと思います。

 今、羊文学というバンドに注目してるんですが、リーダーの塩塚モエカさんは、名門女子校御三家の一つでもあり、キリスト教学校でもある女子学院の卒業で、彼女の作る歌には聖書から取ったモチーフがたくさん出てきます。羊文学というバンド名も、彼女自身、「羊というモチーフは、聖書から取ったんです。中高とキリスト系の学校に通っていたので、毎日聖書を読む日課があって。聖書の中で羊は、“神様への捧げもの”という意味合いで登場するんです。私たちの目指す音楽もそういうものでありたいと願いを込めて、つけました」と言っています。で、この羊文学というバンドについてはしゃべりたいことが一杯あるんですが、今日はこれまでのお話との関連で一曲だけ紹介したいと思います。
 「人間だった」という曲です。この世界はこのままいけば終わっちゃうんじゃないか、人間の飽くなき欲望や環境破壊、行き過ぎた科学技術、そういうものが世界を終わらせちゃうんじゃないか、そういう危機感の中で、彼女はまさに原発のこと、気象改変のこと、デザイナーズベイビーのことなど並べて、「人間が神になろうとして落ちる」と訴えます。そして僕たちはかつて人間だった。でもそれを忘れてしまった。神様じゃないと思い出してよ。と、訴えるんですね。女子学院、やるな、と思いますね。勉強ができるだけじゃない、ちゃんとキリスト教教育をやってくれてて、こんなにすばらしいその成果を見せてくれているわけで、僕もキリスト教学校に関わってキリスト教の授業なんかもやってますけど、なんかそれも無駄じゃないなと希望を与えられたりもします。
 まあ、とにかく今日はこの歌を歌わせてもらってメッセージの締めくくりにしたいと思います。

祈り

 神様、あなたの禁を破り全知全能を手に入れてしまったかのような僕たち人間ですが、なお禁じられた領域があり、手を出してならないもの、足を踏み入れてはならない場所が定められていることを、どうか深くわきまえさせてください。神にでもなったかのように振る舞うことを戒めてください。そこから潔く手を引き、潔く撤退していく、そういう人間としてのわきまえを持たせてください。そのことを声を大にして宣べ伝える者であらせてください。

今月のメッセージ
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