「できることを数えてみる」
聖書箇所:「あなたの御計らいはわたしにとっていかに貴いことか。神よ、いかにそれは数多いことか。」
詩編139編17節
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千歳栄光教会
杉岡ひとみ 牧師
5月の説教を担当いたします。杉岡ひとみです。私は北海道の千歳市にあります、千歳栄光教会の牧師をしております。
春は新しいことがいろいろ始まる季節です。新しい場所、新しい出会い、さまざまな出来事が起こります。その出来事の中で私たちの心は揺さぶられます。いいことがあれば喜び、心は軽やかになるものです。しかし、いつもいいことばかりではないでしょう。さまざまな出来事がある中でうまくいかないこと、悲しいこと、なぜ、どうしてと問いたくなることも私たちの日常には本当にたくさんあります。美しい新緑のすがすがしさのように心が晴れ晴れとする日もあるのでしょうけれども、それとはうらはらに気持ちがうかないことが私たちにはあるものです。
そういう風に心が晴れ晴れとはしない日が続くと、私たちはついつい「できなかったこと」の数を数えてしまうものではないかと思います。“こんなことができなかった”、“こんなことができていたら、もっと違っていたのではないか”と考えてしまうものです。大変な状況の真っただ中にいる時、できなかったことの無念さを感じ、ついついできなかったことの数を数えてしまう私たちがいます。
私自身のこれまでの歩みの中でも、「これもできなかった」「あれもできなかった」と、できないことを数えてしまった経験がたくさんあります。思い浮かぶことはいくつもありますが、そのひとつに、娘が生まれたばかりの頃の出来事があります。
わたしが長女を出産した頃、どの母親もそうだと思うのですが、娘のことで忙しい日々を過ごしていました。私の一日は離乳食の準備やおむつがえなど、ほぼ娘のお世話で終わってしまい、自分のことはもちろん、掃除や食事の支度、そして食器の片づけの時間さえもきちんととれない毎日でした。育児の間のすきま時間で買い物にいったり、部屋を片付けたり、工夫をしていろいろやりくりしていましたが、それでもさまざまな家事が中途半端に終わってしまっている状態が続き、だんだん気持ちも追い詰められていきました。子育てを楽しいとは思っていましたが、からだもこころも疲れてへとへとでした。
そんなある日、娘の定期健診で病院にいくことがありました。健診で順番待ちをしていた時、その病院のカウンセラーの方が私に声をかけてきたのです。その方は優しくほほえみながら私にこう言いました。
「今は子どもさんが小さくて、自分の時間もなくて、あせったり、不安に感じることがありますよね。そういう時って、ついついできないことを数えたくなるものです。でもね、できないことを数えるんじゃなくて、できることを一つでもいいから探してみてはいかがですか?『今日はこんなことができなかった』ではなくて、『今日はこんなことができた』と気づくだけで、少しだけ気持ちが軽くなりますよ」
その言葉に私はハッとしました。“確かに、私は「今日も家事が中途半端だった。買い物にもいけなかった」と、毎日できないことを数えている。でも、できないことを数えてばかりいたら悲しくなるし、それよりもできることを数えてみようかな”と思いました。もちろん、それからすぐにできることを数えるようになれたわけではありません。けれど少しずつ、できなくて落ち込む瞬間がやってくるたび、“いやいや、できることを数えてみよう”とひとり声に出してつぶやいてみるようにしました。また、自分が一つでもできたことがあったなら「今日はこれができた」と口に出してみました。そうすると、少し肩の力が抜けるような気がしましたし、あきらめたくなっても、「でももうちょっとがんばってみよう」という気持ちになれたように思います。
その後も子育て以外につらい出来事やしんどさを感じる場面がたくさんありましたし、“もうあきらめようか”と思うことが何度もありました。ですが、そのたびに“できることを数えてみよう”とつぶやく時、放り出さずに踏ん張れたことが何回もありました。
私の経験がすべて皆さんに当てはまるわけではないと思います。とはいえ、できることを数えることで、踏んばれたり自信を持てる場合もたくさんあると思います。
詩編139編17節には『あなたの御計らいはわたしにとっていかに尊いことか。神よ、いかにそれは数多いことか。』とあります。私たちの目からみるとできないこと、難しいと思うことがあったとしても、実はそれ以上に私たちには豊かなこと、できることが神さまからたくさん与えられていて、その恵みの数はいかに多いことか、という意味だと思います。確かに私たちにはできることもあればできないこともあります。できないことを数えてしまった時、できない自分を悲しく思うものです。しかし、神さまは私達と共におられ、私達のできることもできないこともすべて受け止め、私たちに必要なものをいつも備えてくださいます。私たちのために計らってくださるお方なのです。だから、私たちができることを数える時、それは神さまが私たちのために計らってくださる恵みを数えることだといえると思います。
皆さんの日々を振り返るとき、できたこと、できないことはこれからも数多くあるでしょう。でも、できることが必ずあるはずです。ぜひ、できたこと、その恵みを数えてほしいと思います。皆さんお一人お一人の毎日の中で、神さまからの恵みを数えて豊かに歩んでいっていただきたいと願います。