この世界に生きる子どもたちの命を守る取り組み
東北教区副議長・放射能問題支援対策室「いずみ」室長 保科 隆
発足2年半を目前にして
東北教区放射能問題支援対策室「いずみ」は、2013年5月に行われた第68回教区総会決議に基づき同年10月に発足した。その後の2年と少しの間の活動が国内外の教会と多くの方々の支援と祈りに支えられて続けられている。心から感謝である。
現在の活動は、1名の室長と1名の顧問、そして室長も含めた5名の運営委員と4名の専従スタッフ、さらに数名のボランティアによってなされている。甲状腺検査においても、また保養プログラムにおいてもボランティアの助けを得ている。
「いずみ」の活動の中心となる事務所は、仙台市の東北教区センターがある建物の別棟である。2階建ての古い建物であるが、以前は宣教師館だった「マギーハウス」を、東北教区、そして教団からの支援金によって1階も2階も大幅に改装して使わせてもらっている。「談話室」のあるこの建物の有効な利用を考えることも今後の「いずみ」の課題の一つである。
活動の基本的なこととして毎月1回の運営委員会と毎週1回のスタッフ・ミーティングがある。そのどちらにおいても、今までの活動の詳細な報告がなされ、またこれからの予定が話し合われる。特に運営委員会は発足当初からかなりの時間をかけてきた。それほどに放射能汚染の問題に対する取り組みが多岐にわたっているからである。
さて、「いずみ」の活動の具体的な内容について記す。発足当初から3本の柱がある。「健康相談と検診」、「保養プログラム」、「訪問と傾聴」である。
一番初めに行われたのは保養プログラムである。開設した月の10月からである。それから検診は12月に甲状腺検査の第1回を行った。さらに甲状腺の検査を担当した医師による講演会もなされた。放射能の問題を主題にした講演会については、その後何人かの講師によりすでに5回行われている。また、大阪教区から派遣してもらった山崎知行医師(大阪教区・愛隣教会員)による健康相談会は、福島県を中心にした教会付属の幼稚園や保育園の子どもたちの保護者たちに対するケアーとして大切な働きを担ってきた。「いずみ」の発足当初は毎月来てもらっていた。福島県、会津地区の若松栄町教会にある会津放射能情報センターとの協力関係は、山崎医師の派遣を考える時に忘れることは出来ない。
1000人超の子どもに検査実施
「甲状腺の検査」について記す。第1回の検査は2013年12月であった。そして2016年1月末に第24回の検査が実施された。すでに1000名を超える子どもたちが検査を受けた。最近は毎月1回の検査が確実に実施されている。福島の原発事故当初に18歳以下だった子どもの中で現在は宮城県に住んでいる人を中心に検査を実施してきた。宮城県でも最初は仙台市からはじめた。甲状腺のエコー検査をするための器械は借りて行った。しばらくレンタル料を払っていたのである。しかし、その後、検査のエコー器械は教団からの全額支援により自前のものを持つことが出来るようになった。感謝である。それ以後は宮城県でも福島県に近い南部の地域(丸森町、角田市、白石市など)に出張したり、また放射線量が高いと言われる宮城県北部の栗原市にも出かけて行き検査を行った。
「いずみ」の活動報告会のために日本各地に運営委員が出かけている。その時に質問が出される。「どうして宮城県だけでしているのか。福島県ではなぜ行わないか」。もちろん福島県に出かけないと決めているわけではない。すでに福島県の南部にある川谷教会の保育園の子どもたちの甲状腺検査を単独で実施した。園長からの希望があったからである。そのために2回訪ねた。また、宮城県で行っている理由であるが、宮城県は県の行政が放射能の心配はないという判断で甲状腺の検査は必要ないと考えているからである。しかし、それはあくまでも県の立場であって市町村のレベルでは必ずしもそうではない。例えば大河原町などでは町の協力を得て甲状腺検査を実施した。具体的には「いずみ」の検査案内を町の広報に載せてもらったのである。申し込みがすぐに殺到した。大河原町だけではない。白石市でもそうである。大河原町では検査会場も町の施設を貸してもらった。町長も検査会場に見学に来た。申し込み者が多く一日の検査で約100名の子どもが検査を受けた。通常は50名程度が限度である。
甲状腺検査については課題もある。エコー検査を交通費のみのボランティアで担当してくれる医師が不足していることである。今まで毎月1度の検査を行うことが出来たのは、エコー検査をすることのできる医師に恵まれていたからである。しかし、今年の4月からは、これまで検査を担当してもらってきた医師の転任もあり、今後の検査の今まで通りの実施については不安材料もある。どなたかエコー検査の出来る医師の方を紹介してもらえないだろうか。
毎回の検査結果については、A一、A二、B、Cの4段階でなされる。嚢胞と結節の有る無し、大きさによって判定がなされる。ちなみに甲状腺がんになる可能性について言えば、BでもCでもなると聞く。
「保養プログラム」について記す。短期、長期の二つのプログラムがある。特に長期のプログラムについては、夏は北海道、春は沖縄で5泊6日の日程で行ってきた。北海教区と沖縄教区の大きな協力を得ている。また、今年3月の第9回の長期保養プログラムは九州教区の奄美大島で初めて行う予定である。
東日本大震災から、そして福島の原発事故からまもなく5年を迎える。「いずみ」の活動は、神が創造し、またその摂理をもって導いてくださるこの世界に生きる子どもたちの命を守る取り組みとして始まった。生命倫理的な課題である。原発事故の大きさに比べてあまりにも小さなつながりであり取り組みではある。しかし、私としては、このような働きを今後も続けていきたいと願っている。全国の教会に「いずみ」の働きを続けるための支援のお願いを発送している。どうかよろしくお願いしたい。祈りを持って支えてもらいたい。
(仙台東一番丁教会牧師)