▼「ゆこう、どこかに あるはずだ もっとよいくに、よいくらし!」ひとりのたいこたたきがこのように叫び、歩き出したことからはじまった行進は、新しい町に入り、新しい土地を過ぎる度に人数が膨れ上がり、やがて…。▼チムニクの絵本(福音館)を二〇数年ぶりに読み返した。絵本だから紙数は多くない。話の粗筋は憶えていたつもりだが、初めて読むように新鮮だ。それどころか随分と印象が違う。昔は主題を読み誤っていたのかも知れない。▼優れた童話には、多様な解釈の余地がある。読者の年齢や置かれた環境で色合いを変える。だからこそ、何度でも読み返すことが可能だ。著者の意図が読者の誤解を許さない程に表に出ているものは、必ずしも優れた作品とは言えない。豊かな作品は多様な解釈を豊かに生み出す。その分誤解も。▼『罪と罰』が日本に紹介された時は推理小説の扱いだったということをどこかで読んだ。『復活』はメロドラマだ。これは解釈の多様か、曲解か。▼どこかでたいこの音がする。『ゆこう、どこかに』