木下宣世
(聖書〉
詩編46編2〜8節
神はわたしたちの避けどころ、わたしたちの砦。苦難のとき、必ずそこにいまして助けてくださる。
わたしたちは決して恐れない
地が姿を変え
山々が揺らいで海の中に移るとも
海の水が騒ぎ、沸き返り
その高ぶるさまに山々が震えるとも。
大河とその流れは、神の都に喜びを与える
いと高き神のいます聖所に。
神はその中にいまし、都は揺らぐことがない。
夜明けとともに、神は助けをお与えになる。
すべての民は騒ぎ、国々は揺らぐ。
神が御声を出されると、地は溶け去る。
万軍の主はわたしたちと共にいます。
ヤコブの神はわたしたちの砦の塔。
戦 慄
2011年3月11日午後2時46分、私は東京教区の三役教務打合わせ会に出席するために、教団ビル5階にエレベーターから降り立ったところでありました。突然、強い揺れを感じて立っていることができず壁に手を当てて揺れの収まるのを待つことしかできませんでした。どこかで鉄の扉が勢いよく閉まるような音が響きました。
しばらくして少し揺れが静まり、私は教区事務所のドアを開けて中に入りました。議長、書記そして事務所の主事や職員たちが緊張した面持ちで立っており、床には書類が散らばっていました。
「外に出よう」との議長の掛け声で私たちは階段を駆けおりて外に出ました。
早稲田奉仕園の中庭には既に多くの人々が集まっていました。その後も二・三回強い揺れが来たと思います。どれ位の時間が経ったでしょうか。ようやく揺れが収まったようなので皆で部屋に戻りました。
すると、お向かいの年金局の部屋から私たちを呼ぶ声が聞こえました。行ってみると小さなテレビの画面に異様な光景が映っていました。
大水が大地をなめるようにして次々と田畑、道路、建物などを飲み込んでいくのです。すぐに今の地震による津波だとわかりました。戦慄が体中を走り抜けました。
これは現実だろうか、このようなことがあってよいのだろうか、強い衝撃とともにそのような思いが脳裡をかすめました。
これがあの時の私の体験です。
激 励
2011年4月4日、当時世界宣教委員長であった私は、甲東教会で行われる浅田容子先生の宣教師派遣式を行うため関西に向かう新幹線の車中におりました。
手にしていたのはそれより10日程前に教団世界宣教部職員から送られてきた震災に対する海外諸教会からの祈りや励ましのメッセージ集でした。
これを開いて読み始めた私は非常に驚き、読み進めていく内に感動し、胸が熱くなりました。世界の各地から寄せられた50通程のメールです。その日の内に届いているものも沢山あります。こんなにも多くの国々の教会から暖い励ましや心からの慰めの言葉が早々に送られてきたのです。
その中でも特に私の目にとまったのは韓国基督教長老会のベ・テジン総幹事からの文章でした。同総幹事は冒頭に掲げた詩編46編の御言葉を引用して励ましてくださったのです。
私は早速聖書を開いてこの箇所を読みました。
「海の水が騒ぎ、沸き返りその高ぶるさまに山々が震える」。何とあの日の津波の様を活写していることかと感じさせられました。
しかし神は「必ずそこにいまして助けてくださる。わたしたちは決して恐れない」。私は励まされました。また、自分の信仰を問われる思いが致しました。
連 帯
2012年2月20日、私は他の委員の方々と共に台湾基督長老教会との協議会のために台湾に向け飛び立ちました。
この協議会は2年に一度、両国で交互に開かれるものですが、今回は東日本大震災の救援に取り組んでいる日本基督教団と2009年8月に起こった大洪水からの復興に尽力した台湾基督長老教会とが互いの経験を分かちあい、祈り励ましあうという趣旨で行われたものでした。
台湾基督長老教会の積極的で力強い取り組みに感心し、大いに学ばされました。
しかし、その台湾基督長老教会が自国の災害復興のために全力を傾注しつつ、さら東日本大震災のために日本円にして8千万円もの献金を送ってくださったことを聞き、心を揺さぶられる思いがしました。日本の教会がかつてこれ程までに海外の教会に対して力を尽くしたことがあったでしょうか。
その後、昨年の夏には台湾から百名ものボランティアを派遣してくださったと伺っては、唯驚嘆するのみ、との思いです。
私たちの教団はこれ程までに諸外国の教会から祈られ、支えられているのです。このことを忘れてはならないと思います。
呼 応
このような海外からの祈りや支援は私たちにとって大きなうながしではないでしょうか。彼らが被災地の人々や教会をおぼえてこれ程までに心を用いてくださっているとしたら、まして国内の私たちは彼らの祈りに触発されて、一層祈りと支援に励まなければならないと思います。
教団は10億円を目標に救援募金を行っています。この具体的な目標を達成するために皆で力を合わせたいものです。
東京教区は2011年5月に行われた教区総会で教区として5億円を目標に募金に励むことを決議しました。そのために教区の募金委員会を組織しました。現在、委員長のもと各支区に属する諸委員会が熱心かつ綿密な募金活動に取組んでいます。
私共の教会もこれに呼応して5年間で1千万円の目標を立てました。もちろんこれで十分とは思いませんが、ともかく教団全体の目標を達成するために協力を惜しんではならないと考えたからです。
海外諸教会からの連帯の祈りに動かされ、自分たちも全力を尽くして支援に励まねばと思う次第です。
(東京教区総会議長、西千葉教会牧師)