1月10日、教団救援対策本部が主催し、東北教区被災者支援センター・エマオ石巻が協賛した新春コンサートが、被災地である宮城県石巻市で行われました。
この企画は、昨年の夏の終わり、新日本フィルの現役奏者とその仲間たちが私たちに申し出て実現したものです。鈴木隆太さん(ピアノ)、山口幸子さん(ヴァイオリン)、渡辺玲雄さん(コントラバス)、田中成行さん(ファゴット)の4人の奏者が2台の車に分乗し、石巻を訪れました。演奏会は、午前中は石巻栄光教会附属栄光幼稚園(小鮒實園長)、午後は津波に襲われた石巻市立石巻小学校(鈴木則男校長)、夜は石巻山城町教会(関川祐一郎伝道師)が会場でした。幼稚園は50名の園児と保護者、小学校は300名の児童と保護者、そして教会は厳寒の中を訪れた50名を超える地域の人々が観客でした。
この4つの楽器の組み合わせは珍しいものでしたが、本当に素晴らしい演奏でした。特に、夜の部の石巻山城町教会では、ヴァイオリンとコントラバスによって演奏された「チャルダッシュ」が終わると、観客がスタンディング・オベーションを送るほどでした。
今回の企画の中心となった鈴木隆太さんが、会場に向かう車の中で言われた言葉に次の様なものがありました。「僕は、このような演奏をしながら、ふと考えることがあるんです。音楽がどこまで被災者の方々の心の深い傷を癒すことが出来るのかと…」。
この言葉は、私の心に残りました。そして、あの、被災者である観客のスタンディング・オベーションを目の当たりにしたとき、「確かに届いている。深い傷を負った方々であっても、この瞬間、音楽は確かに被災者の方々の心に届いている」との確信にも似た思いが私の心に生まれました。
それは、演奏者が、自分の持てるすべての力を尽くして演奏し、生み出した善意の音の結晶が、傷つき、閉ざされた、被災者の方々の心の厚い壁を解きほぐしていく場面であったと思います。
石巻の海岸線近くを吹く強い風は、5分と外にいることが辛く感じられるほどの氷のように冷たい風でした。しかし、この厳しく冷たい風が吹く一方で、新日本フィルとその仲間たちのような善意の熱い想いが、幾重にも石巻の地を優しく包んでいます。
(飯島信報)