011年平和聖日
日本基督教団 総会議長 石橋秀雄
在日大韓基督教会総会長 崔栄信
死者・行方不明者を合わせて2万人以上を出した未曾有の災害である東日本大震災は、私たち日本に住むすべての人々に大きな痛みと苦しみをもたらしました。特に、東北から関東にかけての約500キロにわたる沿岸部を飲み込み、人間の生活の営みを無残に破壊し尽くした津波は、恐るべき自然の力に対する畏怖の念と、そこに暮らす私たちに人間の弱さとはかなさをあらためて悟らせました。このような悲劇の中で、私たち日本にあるキリスト者たちは、私たちの人生に与えられた「故なき患難」の意味を苦しみながら探しつつ、今大きな痛みの中にある人々と共にその痛みを分かちあいながら、それでもなお望みを持って復興への道を歩み始めています。なぜなら、「ひとり子の十字架の上での死」という絶望的な出来事でさえ全人類の救いへの器とされた神は、この絶望をも、私たちが測り知ることのできないその善きご計画にしたがって、未来の希望への器と変えてくださると私たちは信じているからです。
私たち、日本基督教団と在日大韓基督教会は、それぞれの復興支援策を通じて、被災地の教会とキリスト者たちのみならず、すべての人々に寄り添い、その苦しみと痛みを共に担っていくことを決意しています。そのために、すでに実施された緊急支援の他にも、被災地の復興と人々の生活の再建と魂の回復のためのサポートを、教会復興支援と同時に中・長期的に進めることをすでに計画し、実行しています。さらに、「わたしの兄弟であるこの最も小さい者の一人にしたのは、わたしにしてくれたことなのである」(マタイ25:40)と説かれた主イエスの精神にのっとり、被災地における災害弱者(子ども、障がい者、高齢者、外国籍者)を取り巻く問題に、特に大きな関心を払いつつ、復興支援を進めていきます。またこれらの支援策のなかで、必要に応じて両教団が協力し互いの働きを支え合うことこそ、1984年に両教会の間に結ばれた宣教協約のひとつの結実であると信じています。
一方でこの大震災は、私たち日本に住む人々の間違った歩みを明らかにしました。人々の予想をはるかに超える地震と津波の破壊力によって、その制御機能を失い崩れ落ちた福島第一原子力発電所は、最悪の放射能汚染を引き起こし、今も多くの人々の命を危険にさらしています。実に、原子力の軍事利用によって大きな被害を受けた唯一の被曝国であり、核の恐ろしさを他のどの国よりも知っているにもかかわらず、この日本は「必要性」「安全性」「経済性」、そして最近では「親環境性」というスローガンのもと、発電の原子力化を推し進めてきました。また、今回の重大事故に際して日本政府は、一触即発の危機的状況や、人の健康に重大な影響を及ぼす深刻な汚染状況が継続していたにもかかわらず、その事実を多くの部分において隠蔽し、むしろ放射能の被曝基準値を引き上げることによって急場をしのぐという、人々の命と生活に対する責任を放棄する行動を取っています。すでに、これまでの原子力推進政策を支えていた「必要性」「安全性」「経済性」、そして「親環境性」というスローガンのどれもが虚偽であったことが明らかになりました。東日本に住む人々の命を危険にさらし、全地球の環境に影響を与えているこの原発事故は、とどまるところを知らない利便性と利潤の追求の道を歩むことを選択したこの国と、そしてそれを支えたこの国に住む人々が引き起こした「人災」であり、そういう意味でこれは、手をつけてはならなかった強大な力を我がものにして驕り高ぶっていた私たち人間の罪に対する警告であるのではないでしょうか。
日本基督教団と在日大韓基督教会は、この未曾有の震災状況と取り組みつつ、次のことを真摯に祈り求めつつ、共同の歩みを重ねていくことを表明いたします。
1. 被災者に対する公共の中・長期的支援が、精神的なケアも含めて適正に行われること。また被災者支援にあたる民間の努力に対して、政府による支援が十分に行われること。
2. 被災した外国籍者に対する公共の支援とケアが適正に行われること。また災害弱者に対する虐待や差別的待遇の有無が監視されること。
3. 日本政府と東京電力が、原発事故と放射能汚染に関わる全ての客観的事実を、隠すことなく明らかにすること。
4. 原発事故により警戒区域・緊急時避難準備区域・計画的避難区域に指定された地域の住民たちに対する生活保障が、完全に実施されること。
5. 原発事故後、原発作業員の被曝量、また子どもたちの被曝許容量の引き上げに関し、その合理的な根拠を明示し、その値を適正値にもどすこと。
6. 全ての原発の稼働を停止し、廃炉を前提とした処置が取られること。また原子力発電に取って代わる自然エネルギーの開発が全力で取り組まれること。