救世軍への弾圧を、憲兵隊長として指揮した、大谷敬二郎氏の随想録、『にくまれ憲兵』(日本週報社)の中に、「あと味の悪かった救世軍弾圧」という文章が収められている。▼英国の諜報活動を排することに躍起になる陸軍からの懇請がある中、容疑不十分との心証を抱きながらも検挙に踏み切り、救世軍の日本的教団化に関わった流れを詳細に記し、それを自らの歩みの、「たった一つの汚点」と振り返る。▼興味深いのは、「ひたかくしにしておいたことがある」と始まる文末の「付記」だ。そこでは、自身が若い頃、縁続きにあった山室軍平宅を訪ねたことがあり、「山室夫人には、何かと家庭の面倒も見てもらったことがあった」ことを記し、弾圧の際の複雑な感情を告白しつつ、そのことが自らの「汚点」を「いくらかでも薄めてくれるだろう」と結んでいる。▼人間の支配が生み出す混沌とした時代を終えた時、その支配の只中にいた人が自らを省みるに至った背後には、神の愛に生きる信仰者の証があったのではないだろうか。今、世界が混迷を深めつつある中、信教の自由が守られることを願うと共に、自らが神の愛に生かされているのかを顧みたい。