死を前にする隣人の言葉に聞くために
一人の医師との死別が、宍戸さんに死を前にした人々のために何かすることが出来ないかを考えさせるきっかけとなった。
大学卒業間近に、宍戸さんは難病を負い、命を取留めた後も長期治療を要した。病名すらわからなかった病だったが、原因を突き止め完治に導いてくれたのが先の医師だった。自分と同い年の医師が50歳を越えて間もなく逝去したことに大きなショックを受けた。
命を救ってくれた医師の死後、宍戸さんはホスピスでのボランティアを始める。死を目前に緩和ケアを受ける人々が語ることをベッドサイドで聞く奉仕である。このボランティアを通して、人に寄り添い、話に聞くことのできる自分を発見した。
死にゆく患者とその家族の側にいて、患者本人とこれを看取る家族の間に、死を受容するための時間差があることに気付かされる、と言う。多くの場合、患者本人は既に死を受容しており、家族は愛する者の死を受容するため直前まで揺れ続ける。本人も、家族も死について備えゆくことの大切さを思う、と言う。
日本の終末医療では霊的なケアが十分でない、と宍戸さんは思っている。緩和ケア病棟にチャプレンがいる病院は、キリスト教信仰に基づいて建てられた病院以外、ほとんど見られない。求める人に、霊における苦しみ、痛みを真実に和らげ、まことの慰めをお与えくださる方をこそ、お伝えしなくてはならないであろう。
死を前にした人々の言葉に聞く大切さに気付かされたことは、自死防止を目的に設立された電話相談にてボランティアすることにもつながった。このボランティアを通して、聖書の語る隣人がもっと大きな広がりを持っていることを知らされた、と言う。より多くの人々の言葉に聞くことができるよう、現在、この団体の広報委員として、多くのボランティアが応募されるよう訴えている。