▼「良心なんてものは、お説教に集まった信者たちをおどすために牧師が発明したものにすぎないのよ。たいていの人には、良心は臆病の別名にすぎないのよ。それに、私は臆病じゃないわ」。病弱な夫を殺して遺産を手にしようとした女は、疑心暗鬼に捕らわれて次々と無用な殺人を重ねる。『探偵を捜せ!...パット・マガー、創元推理文庫』▼格別意味の深いセリフでもないが、辛い出来事が重なった時には、こんな言葉も棘のように心を刺してくる。「信仰とは弱者の倫理だ」とか、陳腐な言葉にも、心が弱っている者には、グサリと来る。▼そんな時、心臓バイパス手術を受けたばかりの85歳になる婦人を見舞った。手術痕も痛々しいのに、表情は至って明るい。「お医者さんにも看護婦さんにも恵まれて幸せです」。▼四方山話の流れで、「聖書を読むと直ぐに眠くなって、私の睡眠薬です。御言葉が一緒だと思うとすっかり安心してしまいます」。そして、「あっ!牧師さんの前で、ゴメンナサイ」。▼否、素晴らしい証しを聞いた気分だ。癒されて病院から教会に帰った。▼本当の信仰は恐怖などではない。主が共にいて下さる、御言葉が導いてくれる、その安心が、キリスト者の良心だ。▼時間を忘れるほど聖書を読みふけるのも信仰の業だろうが、睡眠薬になるのも、信仰の業だ。