かつて「江戸優り」と言われるほどに栄えていた水郷の町・佐原には、屋号を代々引き継いでいる商家が多い。橋本伊作さんは「司佐野屋」に生を受けた。曾祖父は今年で創立130年となる佐原教会の当初からの教会員で、橋本さんは四代目にあたる。「あなたの家は教会守りなんて、よく言われますが」と、橋本さんは面映ゆげに目を伏せた。「人間に神様を守れるはずがありません。恩寵の中に置かれているのは私どもです」。
教会に通うことを当たり前として育ったが、主との出会いはなかなか訪れなかった。千葉支区中高生修養会で、感動的な証しを語る仲間が羨ましかった。信仰ばかりでなく身近な事柄を、頑ななまでに真剣に受けとめ悩む十代を送る中で「その日の苦労は、その日だけで十分である」の聖句が心に沁みた。深く慰められ、今日を大切に生きることだけに集中しようと決めた時、心底から楽になった。
高校2年で受洗した。救われた喜びは大きく、結婚して授かった長女には「今日」に通じる「杏子」をつけた。CS教師、役員として仕え、一昨年の会堂建築時は会計を担当し、建設のために働く中で、人の思いを超えて多くを与えてくださる主の恵みを知った。
水に恵まれ、農地が広がる佐原で、肥料を中心とする農業関連資材を扱う会社を営んでいる。さらに、地元の仕事仲間と「小江戸」佐原の活性化をめざして興した街づくりの会社も16年目を迎えた。
農家に美味な作物を育てる良い土作りの技術的な助言をしながらも、「土はひとりでに実を結ばせる」の御言葉を忘れたことはない。命も、すべての事柄も主が豊かに導き育ててくださると信じて、与えられたこの場とこの日を大切に生きてゆくことが橋本さんの祈りである。
クリスチャンホームに生まれ、佐原で肥料・農業生産関連資材販売業を営む。佐原教会員。