現在大学宗教主任として働く森島豊牧師は、論文「日本におけるキリスト教人権思想の影響と課題」を執筆、今年3月、中外日報社が主催する涙骨賞最優秀賞を受賞した。
日本国憲法改憲、しかも、最高法規条項すら削除しようとする動きが進む中、しばしば耳にするようになった「押しつけ憲法」との言葉に対する違和感が執筆のきっかけになったという。
カルヴァンは、神への服従が人間の支配者への義務より上にあることを根拠に抵抗権の思想を主張し、その思想がピューリタンに継承され、信教の自由に結実する。研究を進める中で、この人権思想が、明治期に抵抗権とキリスト教信仰との関わりを考究しつつ憲法私案を起草した植木枝盛、更にはキリスト者の家庭で育った昭和の憲法学者鈴木安蔵を通して日本国憲法に及ぶことを見出した。その過程にこそ、日本における人権思想の主体的、積極的受容があったと評価する。
しかし、日本において、人権理念の担い手が育たず、その継承が困難になっており、神に根拠がある抵抗権を、社会において、いかにして共通の価値として行くのかという課題がある。森島氏は、この課題と向き合ったジョン・ミルトンとの対話の中で、「生まれながらの人間が本来持っている自然権に通じる」公共の福祉という歴史的人権理念を〈教育〉によって養う必要性を示される。更に、公教育だけでは、培われる人間性が国家によって変えられ、公共性が公益、公の秩序に変更されてしまう可能性もあるとし、人権の源泉を知るキリスト教学校教育が文化と歴史を形成していくことに大きな責任があるという。
また、学校において、建学の精神の担い手が少なくなり、国家、社会に呑みこまれつつある現実を顧み、教会が、「今こそ、人々に届く言葉で語られる説教と地道な牧会による伝道に励んでほしい」と語る。
1976年生まれ。長崎平和記念教会牧師を経て、現在、青山学院大学宗教主任。