第38総会期第4回常議員会
議事第22号
日本基督教団に所属する諸教会・伝道所に対して、脱原発への働きに参与することを呼びかける件
提案者 議 長
議 案
2011年3月11日の東日本大震災により起こった東京電力福島第一原子力発電所事故を受け、第38総会期常議員会は、日本基督教団に所属する教会・伝道所に対して、脱原発のために祈りを合わせ、その働きに参与することを呼びかける。
提案理由
2011年に起こった東京電力福島第一原子力発電所事故による放射能汚染の問題は、今もなお深刻さを増しております。
この間、2012年5月5日に北海道電力泊原子力発電所3号機の定期点検に伴う稼働停止によって、日本中すべての原発が停止しました。しかし日本国政府は「国民の生活を守る」との理由により、同年7月1日に関西電力大飯原子力発電所を再稼働した(現在は定期点検のため停止中)ほか、今なお新たな原発再稼働の計画が撤回されることはありません。また、青森県六ヶ所村の核燃料サイクル施設や福井県敦賀市の高速増殖炉「もんじゅ」など、その安全性が疑問視され、大小様々なトラブルが頻発する中にあってもその計画・運転が続けられている施設が存在します。
日本はこれまで、「絶対安全」との言葉をもって原子力政策を推進してきました。しかし、この「安全神話」は崩壊し、今私たちは目に見えない放射能被曝の恐怖の中に生きるものとなり、また、日本は、放射能を海や空にまき散らす、世界に対する加害者となりました。福島第一原子力発電所爆発事故発生から2年11か月が経過した今、あらためて私たちは深い痛みをもってこの現実を受けとめたいと思います。
日本基督教団では、2012年3月27日に石橋秀雄教団総会議長名で「福島第一原子力発電所事故に関する議長声明」を出し、「すべての原子力発電所の稼働を停止し、廃炉を前提とした処置が取られることを求めつつ、教団に属するすべての教会において祈りを合わせていただきたいと願います。」と訴え、2013年3月11日にも「福島第一原子力発電所事故三年目を迎えるに際しての議長声明」を発表しました。また、一昨年と昨年の二度にわたって在日大韓基督教会総会長との連名で、脱原発を求める「平和メッセージ」を発表したほか、各教区においても、原発廃止を求める声明の発表や決議がなされております。
私たちが核によらない世界を求め、そのような世界を作り出す働きに参与することは、例えば電力会社で働いている方たちを排除しようとするものではありません。この世において様々な働きに召し出され、遣わされる一人一人として、誰の生命であっても守られ、生活が支えられることを求めるものです。生命よりも経済を優先し、特定の地域に核を押し付けてきた差別としての構造、そして今現実に生きる生命と未来の生命を脅かし続ける原子力発電所をはじめとする核エネルギー施設の存続は、「平和を実現する人々は、幸いである。その人たちは神の子と呼ばれる。」と教えられた主イエス・キリストの教えに従う中で、到底容認できることではありません。
「地とそこに満ちるもの、世界とそこに住むものは、主のもの」(詩編24編1節)との聖書の言葉に立ち、創造主なる神が造られた世界の保全を委ねられた者として、私たちはすべての原子力発電所の廃炉と、核によらない世界(脱原発)を求めることのために祈りを合わせ、そのような世界を作り出す働きに参与することを願って、本議案を提案いたします。
*大飯原子力発電所再稼働に関する記述について、三役の判断でより正確な表現に改めました。
2014年2月18日
原子力発電所の廃止を求める声明
日本基督教団第38回総会期
第4回常議員会
日本基督教団第38回総会期常議員会は以下のように声明する。
「日本国政府は上関原子力発電所はじめすべての原子力発電所の建設計画を撤回し、大飯原子力発電所をはじめ稼働中の原子力発電所の運転を停止し、さらに原子力発電所の廃止と廃炉へと勇気をもって決断することを求める。」
2011年3月11日の東日本大地震と津波によって引き起こされた東京電力福島第一原子力発電所爆発事故は大量の放射性物質の拡散による放射能汚染をもたらした。この事故より多くの住民が避難と移住を余儀なくされ生活基盤と生活そのものを奪われた。広範囲にわたる経済活動の影響、将来にわたる健康被害と特に子どもたちの成長への不安をもたらしている。さらに東北地域への偏見と差別をも生み出している。
その後多くの反対にもかかわらず大飯原子力発電所が再稼動し、さらにいくつかの原子力発電所では再稼働のための手続きが進められようとしている。東京電力福島第一原子力発電所爆発事故の経験が生かされることのない方向に向かっている。
日本基督教団は東京電力福島第一原子力発電所の20キロ以内に小高伝道所と浪江伝道所を持ち、現在活動の休止を余儀なくされている。
日本基督教団はこれまで、2012年3月27日「福島第一原子力発電所事故に関する議長声明」と2013年3月11日「福島第一原子力発電所事故3年目を迎えるに際しての議長声明」を発表し、すべての原子力発電所の稼働を停止し、廃炉を前提とした処置が行われることを願ってきた。第38回教団総会には「上関原発建設計画の白紙撤回と既存原発の即時停止を日本政府に求める件」、「日本基督教団として脱原発への働きに参与することを確認する件」が提案された。さらに2014年3月11日に日本基督教団東日本大震災国際会議「原子力安全神話に抗して-フクシマからの問いかけ-」を開催する。
1.東京電力福島第一原子力発電所事故によって明らかにされたこと。
これまで、原子力発電所は原子力の平和利用という名目で推し進められ、安全神話によってその危険性が隠蔽されていた。それは、技術進歩への安易な依存であり、人間の知恵の限界への洞察の欠如がもたらしたものであった。
敗戦後、日本では経済発展を豊かさの指標と考え、エネルギーの大量消費が求められ、都市化によって地方との格差が生まれた。原子力事業は経済発展を支える国策の一つとして推奨されてきた。その中で原子力事業は権益を生み、地方へのばらまきにより、原子力発電所の設置が進められた。そこでは豊かさの追及が他者への負担を強いることが黙殺されてきた。
2.東京電力福島第一原子力発電所事故によってもたらされたこと。
爆発を伴う事故による放射能汚染は解消することのできない破壊をもたらした。避難移住が強制され、周辺を含めて生活と経済活動が失われたばかりでなく、喪失感と将来への不安と重圧をもたらした。さらに被害への意識の違いが広い範囲で偏見と差別を生み、深刻な不信感をもたらしている。それが被災者を一層窮地に置くこととなっている。子供たちの心身への影響ははかり知ることができない。生態系と自然環境への影響もはかり知ることができない。
3.原子力発電所の再稼働と新規の原子力発電所建設に反対し、廃炉へと向かうことを求める。
東京電力福島第一原子力発電所事故原因の究明も途上であり事故処理も見通しが立たないままである。除染は十分な成果を上げることができず、さらに大量の汚染水の漏えいの問題は深刻な事態を招いている。
現状ではすべての原子力発電所は危険性において福島第一原子力発電所と同じであるといえる。また、核燃サイクル技術も放射能廃棄物最終処分の技術も確立されておらず、その見通しが立つ確証もない。放射性廃棄物の蓄積は次の世代への危険性を増大させ続ける。
それゆえ、再稼動した大飯原子力発電所の停止を求め、停止している原子炉の再稼働に反対する。また新規の原子力発電所建設に反対する。さらに、すべての原子力発電所では廃炉に向けた手続きと作業が始められ、進められなければならない。
4.事故原因が徹底的に解明され、事故に起因するあらゆる被害が調査され、風化することのないようにすべきこと。
事故についてすべての情報が正しく開示され、検証されなければならない。事故によってもたらされた被害の状況の報告や証言は後の世代に伝えられるように工夫され生かされなければならない。
5.新しい生き方に向かうべきこと。
われわれは核によらない世界と生活の実現のために、新しい生き方へと向かうべきである。
原子力発電所は経済発展と技術革新による豊かさの享受を求めたことの一つの表れである。それは、安全神話、技術の進歩の神話、豊かさへの神話をまとってきた。それらがほころびる中、われわれはその偶像性を見抜き、人間の知恵の限界を真摯に見つめ、神の与えたもうた分に生きることへと向かわなければならない。
われわれはこの世界が神の恵みによる創造世界であることを覚え、この世界を平和と愛に仕えるように管理する責務と、被造物全体に対し本来の秩序と調和した環境を保護する責務を負う。
この被造世界に生きる者は神からゆだねられた恵みがより公平に分配されることを願い、限度を自覚しない消費による生き方から離れなければならない。
そのためにも自らの傲慢の罪を知り、神を知る真に人間的な生き方を求めなければならない。
6.祈り。
父なる神よ、われらに神が祝福をもって創られた世界に生きる謙虚さを与えてください。
東日本大震災と原子力発電所事故によって被災し、被害者となっている人々に御手の労りと慰めを与えてください。
人々を導く責任を負うものが、この悲惨を受け止め、勇気をもって正しく判断することができますように。
また、被害者のために身をささげて働いている人々が支えられ守られますように。
主よ、われらを正しい道に導き、勇気をもって歩みだすことができる力を与えたまえ。
主イエス・キリストの御名によって祈ります。 アーメン。