「日本キリスト教海外医療協力会・JOCSは、『お金や物を安易に送るのではなく、人を派遣することを通して共に生きる』ことをモットーに活動しているNGOです」小冊子に記されている通りに、計七年以上バングラデシュで活動し、様々な障碍を持つ人々と「共に生きて」きた岩本直美さんの報告会が、去る七月二三日、玉川教会を会場に行われた。
北海道くらいの面積に一億五千万の人口、高い山が迫り人が住める所は限られている、ドラム缶をひっくり返したような雨、講演は国土と気候についての説明で始められた。何より、私たちがいかにこの国について無知であり、無関心であったかを教えられた。それは、イスラム教徒についても同様だ。断食月の厳格さは聞いていても、厳密な人は唾も飲まないというのには驚いた。
もっと驚き深刻に受け止めたのは、親がいても放置され、自ら家を出、路上や駅で生活する子供たちの実態だ。希望のない生活の現実、麻薬に走り、ただ目的なくうろつく。写真を通して見ても心が痛む光景だ。
その一方、イスラム国家が誕生した時に移住出来なかった、貧しい人々の末裔であるヒンズー教徒の夫婦が紹介された。夫婦は、「アウトカースト故に、むしろ貧しく小さい人々に仕える姿勢を持つ。本人はそのことを意識してもいない。特別のトレーニングは受けていないが、貧しい人々に向かい合う姿勢が素晴らしい。尊敬している」岩本さんの説明を聞くと、写真で見る夫婦に親しみを覚える。
女性差別の凄まじい現実とそれへの対応にも触れられた。女性は結婚しないと天国に行けないというコーランに基づかない信仰、持参金が必要な結婚、女の赤ちゃんが生まれると食べ物も満足に上げないという女性蔑視。何より、結果的に女性自身が自らを無価値なものだと思いこんでいる。家に閉じこもっている女性たちへの辛抱強い働きかけが行われた。女性たちは自分が間違ってはいなかったということを発見する。そうして、教育を受けていない人達が自分の言葉で語り始める。
ある少年は、父親に腰の骨を折られて下半身不随となったが、家族は病院に入れようとしない。彼を助けることでもっと生活が困難になるからだ。JOCSの支えにより、少年は専門の病院で一〇ヶ月の治療を受け、スラムに戻った。車いすの生活だ。どうしてこんなにひどくなったのかという周囲の問に、この子は決して答えない。聞こえないふりをする。父に放り投げられたことは言わない。赦せないとしか思えない出来事があった。しかし少年は父も家族をも赦している。このような出来事でもなお消えることのない家族への愛が存在するのだ。
「貧しいバングラデシュの人々のただ中に、私たちが人らしく生きる道筋がある。私たち一人ひとりの場合にも自分の弱さの中にこそ、イエス様が現存していて下さる、ありのままに自分を差し出して行けば良いと思う」こう結んで、岩本さんの講演は閉じられた。
深い余韻が残った。