礼拝に与るためには何かしら具体的手立てが
枯れた谷に鹿が水を求めるように
かつて社会問題になった「ダイヤルQ2」というものがある。「099」で始まる電話番号にかけると、いろいろなメッセージが聞ける。同じ番号に何人がかけても、いつでも繋がる。いかがわしいメッセージを聞くために中高生が盛んに電話をかけ、高額の支払いに親が仰天したというようなことが連日報道された。インターネットや携帯が普及する前の話だ。
このシステムが今でも活用されている所がある。タカコムの「多回線音声応答装置・サービスホン」というシステムで、受信専用の複数回線を所持できる。普通回線よりも基本使用料が安く、月額二七〇〇円。受信専用なので通話料はかからない。一度に複数が着信できる利点が牧会に有効だという判断から、いくつかの教会が、このシステムを導入している。
*電話回線を通して礼拝に集う 事例1 中渋谷教会
日本基督教団中渋谷教会では、九三年にこのシステムを導入した。最初に開いたのは五回線。会堂の改築計画が起きた時に、これから高齢者にどの様な配慮が必要かが課題になった。エレベーターの設置などが課題とされる中、高齢のため教会に来ることのできない方に対しても、何らかの配慮がなされるべきとの考え方から、スピーカー、アンプなどの機材の充実と、サービスホンの導入を決定した。初期費用はマイクやアンプも含めて六六万円程だった。
最初の頃から回線の使用率は高かった。導入直後の使用者は五人。設置した回線は全て埋まった。〇六年には使用者の増加により、五回線から九回線に増やしている。現在の使用者は六名前後だという。
電話番号は教会員にも非公開にしている。教会に来ることが困難になったと申し出があると、牧師が電話番号を伝える。番号を伝えるかどうかは牧師の判断に任されている。誰が電話礼拝を聞いているか、確実に教会が把握しており、金曜日には週報をファックスで送る。自宅にいながら、礼拝堂にいるのと全く同じ礼拝を守ることができる、と使用している信徒からは喜びの声が聞かれる。病を得た時に「電話礼拝のできない所に行きたくない」と、自宅を改築して礼拝を守っている人もいるという。そういう使用者の献金によって、回線使用料は十分にカバーされているそうだ。
礼拝の祈祷の中でも「そして電話回線を通して礼拝に集っている方」のことが覚えられる。また、礼拝中に役員がカウンターをチェックして、その日に何人が使用していたかを礼拝出席とあわせて報告する。会堂に集う者だけが対象ではない牧会がそこで展開されている。
このシステムの導入により、牧会が新しい展開を見せた部分もある。電話回線を通して礼拝で一体となっていても、聖餐にあずかれない寂しさがある、との声に応えて、訪問聖餐を行うようになった。婦人会、祈祷会、全ての集会にマイクを使用し、電話回線で聞けるようにもなった。
電話回線で礼拝が守れることで高齢者は安心して老いることができる。自宅にいる限り礼拝を守ることができるということが大きな力になっている。電話機の進化もそれに一役買っている。電話のオンフック機能の普及によって、ずっと受話器を支えていなくても、礼拝を聞くことができるようになった。
及川信牧師は「中渋谷教会に赴任してきて、この設備があって本当に良かった。本当はどの教会でもこういう設備があった方がいい。できればこれからでも入れた方が良い。大きな力になります」と語る。
若い人への伝道の充実を図るためにホームページにも力を入れているが、電話回線は牧会の重要な要素として受け止められている。
*讃美礼拝、オルガンコンサートも 事例2 千歳船橋教会
同様にサービスホンを導入している教会に日本基督教団千歳船橋教会がある。導入は九六年。中渋谷教会で、このシステムを紹介されたのが切っ掛けだった。
礼拝に出席できない高齢者への牧会が課題となる中、実験的に導入された物が今も活用されている。最初に開いた回線は三回線。一時、利用者が減り、一回線にしたが、現在は二回線を保有している。状況に応じて回線数の増減ができるのも、このシステムの利点だ。
最初の利用者は九〇代の婦人だった。回線使用料を献金という形で自己負担し、最後まで礼拝に与り続けたという。その他にも妊娠中の婦人や高齢者など、常時一〜二名の利用者がいる。
よりよく音を吸収するためにマイクの本数を増やし、司式者、説教者、オルガンそれぞれに専用のマイクをつけた。礼拝だけではなく、クリスマスの讃美礼拝やオルガンコンサートも電話で聞くことができる。
番号を週報に掲載し、必要な人がすぐに番号を見ることができるようにしている。週報の表紙に載せる意味は、「一度でも礼拝に出席した人が対象」だからだ、という。ただし、一方で早い者勝ちになってしまい、本当に必要な人が聞くことができないというようなことも起きる。電話帳などには載せていないが、それでも一度教会に来ただけの人が、電話で聞いていることが発覚したケースもある。余剰の回線を保有することが経済的な負担にもなる。そういう人には、ホームページで説教に触れていただくようにお願いするという。
住宅地の教会であるがゆえの問題もある。比較的近隣に住む教会員が、教会に通えなくなるということは、入院や老人ホームへの入居を意味することが多い。病院では携帯電話の使用が禁じられているため、このシステムが使えない。個室に入るなどの条件が必要になってくる場合もある。大部屋や老人ホームでは、事実上不可能な場合が多い。
それでも、電話回線の利点はある。「説教は音声で聞く方が効果的なのです」と朴憲郁牧師は語る。高齢者が新しくインターネットの使い方を覚えるのは至難の業である。電話回線は、そういう方にこそ有効と考え、パソコンを扱える人、若い人にはホームページをお勧めしている。ホームページにも音声ソフトを取り入れるなど、「声」による伝道に取り組んでいる。どちらの利用者も、その時を「恵みの時」として受け止めている。何よりも、同時に与れるという事が、教会の交わりにとって大きな要素になっている。週報には電話回線による出席者の欄を設け、教勢報告にも反映させるという。
淡々と、「その時の自分」に最適な礼拝出席の方法に移行してゆくことが多いという。最近召された婦人は、通常の礼拝出席から、電話礼拝へと移行し、寝たきりになっても礼拝に与ることができた一人である。
電話回線を取り入れた時の牧師であった熊沢義宣師は七〇年代に「これからの伝道、牧会はITの時代になる」と予見した文章を書いている。これからますます、そういう時代になることを見越して、様々な形での説教の発信を行っていく方針だ。
(辻順子報・下谷教会牧師・教団広報委員)