2023 年 8月1日
内閣総理大臣 岸田文雄 様
〒169-0051 東京都新宿区西早稲田2-3-18-31
日本基督教団社会委員会委員長 柳谷知之
日本国の軍拡に反対し、武力によらない平和構築を求める要望書
2022年12月、岸田政権は安保関連3文書(「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」)の改訂を閣議決定し、2023年6月、「防衛力強化2法」(「防衛財源確保法」、「防衛生産基盤強化法」)を成立させました。今、私たちの国は、防衛費倍増、敵地攻撃能力保有という「軍拡」への道を突き進んでいると考えられます。しかし、この「軍拡」には以下のような大きな問題をはらんでいます。
1.敵地攻撃能力は、東アジアの軍事的緊張を増大させます。
敵地攻撃能力の保有は、九州・沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ「第1列島線」に沿って対中国ミサイル包囲網を構築しようとする米軍の計画に呼応するものです。政府は、これを「反撃能力」と言い換え、専守防衛の範囲内と説明していますが、敵による武力攻撃開始の判断は難しく、標的もミサイル基地だけに限られない以上、これは先制攻撃能力に等しいものであり、かえって地域の軍事的緊張を増大させます。
2.資源のない日本は、ミサイル防衛では国を守ることはできません。
日本は食料の約6割を他国に頼り、エネルギー資源のほとんどを自国で調達することはできません。ウクライナ−ロシア戦争においても、食料やガソリン等の物価は高騰しました。ましてや日本が戦争状態に入れば、食料やエネルギーの確保はできず、国民の生活は困窮を究めることになります。どんな最新鋭の武器を擁したとしても、国民を守ることはできません。
3.防衛力強化のために国民の生活が脅かされます。
岸田首相は、2022年5月の日米首脳会談で「防衛費の相当な増額」をバイデン大統領に誓約し、GDP比2%を宣言しました。「5年間で総額43兆円」という防衛費の支出規模ばかりが先行し、内容と財源の根拠は示されていません。防衛費の拡大は、暮らしに必要な財源の不足を招き、国民の生活はますます脅かされます。
4.日米安保により米国に同調することによって、際限のない軍拡にと進みます。
この軍拡はアメリカの対中国戦略の変容に対応して、日本の軍事的役割を強化するものです。米中の衝突が起きた場合、アメリカと一体となって中国を攻撃するための軍拡である以上、それは際限のない軍拡へと突き進み、米中間、日中間の緊張は一層高まります。
5.軍拡は、戦争協力を求め、民主主義を破壊します。
「防衛生産基盤強化法」は、軍需・武器輸出産業への財政支援、貸付促進、事業継続が困難な企業の国有化等が定められ、これにより武器輸出の促進と、軍需産業の実質的「国営化」が進められます。さらに、「装備品等機密」という曖昧な指定により、軍需産業従業員に対する「守秘義務」と刑事罰が定められていました。「軍拡」のための法整備により、民主主義と平和主義は破壊されます。
私たちの信仰の基となっている聖書は武力と暴力に頼ることについて、次のように警告しています。「剣を取る者は皆、剣で滅びる」(マタイ26章52節)、「暴力に依存するな。搾取を空しく誇るな。力が力を生むことに心を奪われるな」(詩編62編11節)。さらに、「剣を打ち直して鋤とし、槍を打ち直して鎌とする。国は国に向かって剣を上げず、もはや戦うことを学ばない」(ミカ書4章3節)と、武器が平和の道具に変えられるビジョンを打ち出しています。この平和のビジョンは、日本国憲法の「平和主義」とも響き合っています。
以上のことから、私たちは岸田内閣によって進められている「軍拡」に抗議するとともに、安保関連3文書(「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」)ならびに、「防衛力強化2法」(「防衛財源確保法」、「防衛生産基盤強化法」)の撤回を強く求めます。そして、日本国憲法の「平和主義」に基づく外交努力を第一とし、武力によらない対話による平和構築の推進を求めます。
以上