神の愛の中で子どもたちを育む場
阿佐谷幼稚園園長、阿佐谷東教会牧師 坂下 道朗
阿佐谷幼稚園は1925(大正14)年10月、旧日本基督教会の牧師であった高崎能樹氏によって始められました(認可は翌1926年10月)。高崎牧師は関東大震災後、子どもたちへの「震災救護活動」に当たっていました。活動が終わり、子どもたちとの関わりが絶たれてしまったことを悲しみ、「一人前になるまで引越してゆかない子供たちの居る処で、長い間の持論である宗教教育を試みたい」と思い立ち、幼稚園を開くことを決断しました。場所を阿佐ヶ谷に定めた当時は、「左右に深い森があり、駅との間には田んぼが広がっていた」といいます。当初は様々な苦労があったようですが、10年後には卒業生400余名を送り出したと記録されています。
高崎牧師が大切にしたことの一つが母親への教育です。「子供をよくするにはどうしても先ず母性を教育せねばならぬ」と、「母の学校」(最初は「母の講座」)を設け、毎週1回キリスト教や子育てのための知識を教授しました。また後に小金井教会と小金井教会幼稚園の設立に尽力した武南高志牧師と協力して、育児雑誌『子供の教養』を発行しました。その後「母の学校」は年に数回の開催になりましたが、全員参加を原則としているのは、高崎牧師の願いを引き継いでのことです。最近は「母」のみならず、父親や祖父母なども参加しやすいよう「むくろじ学校」(園庭にある無患子・むくろじの木にちなんで)と改称し、現在に至っています。
その後、1954年、設置者が高崎牧師個人から阿佐谷東教会に変更されました。ちなみに教会が先にあって幼稚園を始めたのではなく、園舎内で礼拝を行うところから教会が生まれています。幼稚園から教会。珍しい順序かもしれません。
さて現状についてです。都市部の幼稚園にも、少子化や保育所増設の影響が出てきました。西東京教区には教育部の下に「幼稚園保育園連絡会」が置かれ、園長・設置者同士の交流や情報交換などが行われていますが、どの園も多かれ少なかれ園児減少に嘆いています。
すでに保育所機能を併せ持つ認定こども園になったり、早朝・夜間や長期休み中の預かり保育の充実を図っている園もありますが、従来型の幼稚園では立ちゆかなくなる園も増えそうです。当園は2017年度から「子ども子育て支援新制度」の下で運営される園となり、財政的には多少安定しましたが、それでもなお園児が減っていく現実は変わりません。
幼稚園があることで、教会学校にはそれなりの子どもたちがやってきます。ただ小学校高学年は塾通いのため、中学生は部活動のため、来られなくなる人が多くなります。残念です。保護者の中には子どもの入園を機に求道、受洗へと導かれる人も皆無ではありませんが、ごく稀なことです。それでもよいと思っています。幼稚園は神の愛の中で子どもたちを育む場だからです。その使命を誠実に果たしたいと思います。御言葉の種はしっかり蒔かれていますから。