前回のこの欄で紹介した、秋南教会(秋田県)の瀬谷重治牧師の忘れられない言葉がある。
瀬谷牧師には、私が神学校に行く前から、地区の青年会などで指導いただいていた。神学校を卒業し、当時もたれていた秋田県牧師会の時に、私が、「この広大な地域で伝道をしていて、先生はどのように信徒の方たちの牧会をしているんですか?」と聞いた。秋田県の半分から3分の2ほどの広い地域で、今も続く「伝道圏伝道」を展開し、瀬谷牧師は各拠点を巡回(サーキット)し、信徒宅に泊まるなどして集会をもっていたのである。
私の質問に、瀬谷牧師は間髪入れずに、「ウチは放牧だから」と言って豪快に笑ったのである。「放牧…!?」と、一瞬言葉が出なかったことを覚えている。
瀬谷牧師独特のユーモアのある表現ではあるが、「放牧」とは、牧会をしないでほったらかしにしているということではなく、まず、信徒を信頼しているということ。そして、それぞれの拠点に中心となる信徒を育てて、普段はその信徒が礼拝やら、時には葬儀の準備やら諸々のことを行い、牧師が行くと、必要な用意は整っているというように導いていたということである。
時々「放牧」との言葉を思い起こし、手をかけ過ぎて羊が伸び伸びと成長することを妨げたりすることが無いように…といったことを考えさせられている。 (雲然俊美 教団総会書記)