ただ今単身赴任中
「ただ今、単身赴任中です」と飯田さんは屈託がない。火曜夕方から木曜夕方まで東京・八王子の自宅で過ごし、夫人手造りの五日分の食べ物をアイスボックスに詰めて教会に戻る。生まれも育ちも東京で、一人暮らしは初めてだそうだが、「野菜も自分で作っていますよ」と教会菜園を見せてくれた。
都庁勤務時代、聖書研究会に所属していた飯田さんは、定年を迎えた際、第二の職場を薦められたが、「神学の勉強をしたいから」と固辞して東神大に学部編入し、大学院を卒業して、昨年春、九十九里教会に赴任した。都庁聖研時代の仲間が多数礼拝に出席して激励してくれたという。
六〇歳を過ぎて、何故牧師の道を志したのか。「娘を事故で失ったことがきっかけかもしれない」と飯田さんは淡々と語り、「昨日もたまたま、ヤイロの娘のくだりを読んでいたんです」とつけ加えた。
九十九里教会は一八八三年(明治一六年)、創立一二一年を数える由緒ある教会で、一八八七年建設の木造の会堂は、さる九九年、登録有形文化財の指定を受けた。明治期、会員が百人を数えたこともあったそうだが、現在平均出席一七、八人、無牧の時期もあった。近隣の商店街ではシャッターを下ろした店も多く、この一帯、伝道には厳しい状況が続いている。
「ご多分に洩れず高齢化は顕著で、七〇代が大半を占めるが、信仰暦五〇年に達する強い信仰を持っていることに励まされる。しかも、殆どが同じ教会で過ごしたことは奇跡的なくらい」という。昨年のクリスマス・コンサートは、教会から出てケアセンターで行い好評だった。老人パワー健在な点は、全国諸教会共通のことだろうが、こうした話に接するとやはり勇気づけられる。
伝道師二年目。「皆に良くして頂いて本当に有り難いことだと思う。今、非常に楽しい日々」と飯田さんは静かに燃えている。