海岸侵食に警鐘を鳴らす魚博士
千葉県水産試験場に四〇年近く勤め、魚博士、イワシ博士の異名をもつ平本さんは、海岸侵食で砂浜が激減し、美しい海浜の景観が失われつつあることに危機感を抱いている。
「九十九里浜は全国の海岸侵食の典型例。コンクリート化で、砂の出どころを塞いだから、砂浜が急激に減って来た。砂の消失は年間二〇万トンに達する。消滅する海水浴場もある。このまま放置すれば、六〇キロに及ぶ九十九里浜の砂浜は数十年でなくなるだろう」という。
平本さんの住む館山市は鏡ケ浦の名のある館山湾に接しており、全国一のウミホタルの棲息地として知られている。その中央部に巨大桟橋、コンクリート堤防と人口浜のビーチ利用促進モデル事業が始まって景観は一変した。
バブル崩壊とともに工事は三分の二ほどで中断しているが、平本さんは、「潮流や沿岸流の流れを変えないために、堤防で囲ってはいけない。自然の仕組みを変えないために突堤や離岸堤などの障害物を置かない」ことが大切と、工事そのものに反対して来た。
コンクリート突堤と人工浜、防砂林を伐採しての道路建設は、全国至ることろで見られる現象である。バブル期の公共事業によって促進されたことはいうまでもない。「自然の砂浜を残すには、一度つくった構築物を壊すことも今後の公共事業の一つの選択ではないか」と平本さんは提言している。
講演や執筆を通して、「海の自然環境を守ろう」と訴え続ける平本さんは、「海の国なのに、海に背を向けて生活している。山林の保護に比べ、海への関心が低い」ことが歯がゆくてならない。漁民の関心が今一つだそうだが、「一つには専業漁民が減り、半ば観光業の漁民も増えて来たから、人口浜に期待したりする」という。その中で、「サーファーの関心が高い。守る会の大きな力になっている」と若者に期待している。