原点は蝸牛の歩み
生まれ付きの視力障害のため、五歳で横浜の訓盲院に入寮。それがキリスト教に触れる切っ掛けだった。十年を寮で過ごし、職業訓練の為に学校を移る事になった。不安の中、夢で「いつも聖書を読むように」と示され、神さまと離れなければどこにいても大丈夫との思いを与えられ、転校した。高校入学と同時に兄に誘われ教会の門をくぐった。そのまま受洗し、現在に至る。
視力障害者の世界は「ひらがな」の世界だという。本を読んでも意味を捉えられない時がある。そのジレンマの日々の中で、漢点字の存在を知る。通信教育で学び初め、遅い歩みではあってもやり遂げた。後から考えると、誰にも聞かないで独り相撲を取っていたような時期もあった。しかし、一人でやり遂げた事に満足感もあった。
漢点字が読めるようになって最初に「新約聖書」を読んだ。今まで意味の判らなかった言葉が漢字で読むと意味が判る。言葉、文章として入ってくる。漢字の持つ言葉の広がりや和語の美しさに触れる事もできた。感動だった。
大人になってから漢字を学ぶ苦労を次世代にはさせたくないと思い、漢点字を伝えたいと思うようになった。ボランティアを募ってコンピューターによる漢点字入力の業に関わるようになった。現在は「東京漢点字羽化の会」を仲間と共に立ち上げ、ボランティアの指導、養成の講座を行っている。また、視覚障害者の為の漢点字学習会も開催した。
難しい漢文の打ち込みなどもあるため、ボランティアの募集に応えてくれても、挫折する人もいる。「自分の原点は蝸牛(かたつむり)の歩みだった」事を思い、少しずつでも進もうと努力中である。
今は日々「漢点字が広がるように」と、祈る日々だという。漢点字との出会いを神様から与えられた事と感じ、自分にできる、ほんのちょっとのお手伝いがしたいと願っている。